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温暖化によるナシ発芽不良・みつ症対策——千葉県農林総研の被袋・遮光と非破壊判別技術

鳥取県倉吉市でナシ栽培を手がける農家目線から、千葉県農林総合研究センターが公表した温暖化・酷暑適応技術を検証。暖冬による発芽不良のメカニズムと休眠打破対策、「秋満月」「甘太」における被袋によるみつ症・日焼け軽減効果、振動硬度計を用いた非破壊重症果判別の現場インパクトと、営農支援アプリ「農業日誌」による温度モニタリング・袋掛け記録・品質管理の実践アプローチをまとめます。

ナシの温暖化対策(棚栽培で果実袋の手入れを行う農家とナシ果実)

倉吉の梨園から見上げる、春の芽吹きと真夏の太陽

鳥取県倉吉市といえば、言わずと知れた二十世紀梨のふるさとであり、近年では高糖度な赤ナシ「新甘泉」や「秋栄」の栽培でも全国から熱い視線を集めています。しかし、ここ数年の梨園を取り巻く気象環境の激変には、現場で樹と向き合っている私たち生産者自身、強い危機感を抱かずにはいられません。

一つは、暖冬に伴う「春の発芽不良」です。3月から4月にかけて、本来なら一斉にふくらんで萌芽するはずの花芽や葉芽が、枝の先端付近でパラパラとしか開かず、基部側の芽が死んでしまったり開花がダラダラと遅れたりする現象が散見されるようになりました。芽が揃わなければ人工授粉の適期を逃し、着果数が確保できません。

もう一つが、7月から8月の記録的な酷暑と強烈な日差しによる「みつ症」や「日焼け果」の多発です。収穫直前まで順調に肥大していた大玉果が、樹上で果肉の一部が半透明化して発酵臭を放ち、出荷不能になる悔しさは言葉になりません。特に大玉で良食味な晩生・赤ナシ系品種ほど、このみつ症の発生リスクが高く、秀品率を大きく落とす要因となっています。

こうした温暖化・異常気象の脅威に立ち向かうべく、千葉県農林総合研究センター(果樹研究室)が、極めて実践的な研究成果を相次いで発表しました。


千葉県農林総研が提示した温暖化適応のデータと技術

1. ニホンナシ発芽不良の発生実態と低温要求量不足の解明

  • 冬季(11月〜2月)における7.2℃以下の遭遇時間(低温要求量)が暖冬により不足し、自発休眠打破が遅延。
  • 厳密な気象モニタリングによる自発休眠打破予測と、休眠打破促進剤の適期散布判定システムの開発。

ニホンナシ主要品種の低温要求量と暖冬年の不足リスク対比表

自発休眠打破に必要な「7.2℃以下遭遇時間」と平年(約950h)vs 暖冬年(約580h)の到達状況

ニホンナシが春に斉一に開花・萌芽するには、冬季に7.2℃以下の低温に一定時間遭遇する自発休眠打破が不可欠です。平年(約950時間)であれば全品種で要求量を充足しますが、暖冬年(約580時間)では約170〜270時間もの大幅な不足が生じ、花芽枯死や不揃い開花などの深刻な発芽不良リスクを引き起こします。

対象品種 低温要求量(7.2℃以下) 平年(約950h)の状況 暖冬年(約580h)の不足・リスク
幸水(早生)
主力露地栽培品種
約750 時間
自発休眠打破の必要ライン
充足(+200h 余裕あり)
正常に休眠打破・斉一萌芽
警戒 約170時間 不足
花芽枯死や開花のばらつきが発生。人工授粉の適期を逃しやすく、初期着果数の確保が不安定に。
豊水(中生)
高低温要求量品種
約850 時間
幸水より多くの低温が必要
充足(+100h 充足)
順調に休眠打破
危険 約270時間 不足
低温不足の影響が最も顕著。開花がダラダラと遅延し、不完全花・奇形花や結実不良のリスクが急増。
二十世紀(中生)
鳥取・倉吉の伝統主力品種
約850 時間
冷涼な冬季気候を好む
充足(+100h 充足)
一斉開花・良好な結実
危険 約270時間 不足
春先の萌芽不揃いと側芽枯死が多発。棚面での新梢伸長バランスが崩れ、樹勢維持に大きな影。
秋満月・甘太(晩生・大玉)
高糖度・期待の新品種
約800 時間
大果肥大と高糖度が特徴
充足(+150h 充足)
適期発芽・良好な着花
警戒 約220時間 不足
休眠打破遅延により生育ステージ全体がずれ込み、夏秋期の高温直射によるみつ症発生リスクを助長。

※低温遭遇時間は11月〜2月の7.2℃以下積算値。暖冬年(平野部観測例)では休眠打破促進剤(シアナミド剤等)の適期散布や積算追跡が不可欠。

農研機構果樹研究所および千葉県農林総合研究センター公表資料より整理

ニホンナシは冬の寒さを経験することで自発休眠から目覚めますが、主要品種(幸水・豊水・二十世紀など)が必要とする「7.2℃以下の遭遇時間」は750〜850時間前後に達します。近年の暖冬年ではこれが500〜600時間前後まで落ち込むケースがあり、休眠が打破されないまま春を迎えることで開花遅延や不揃い発芽が発生します。園地ごとの低温積算モニタリングと、適期を見極めた休眠打破剤(シアナミド剤等)の散布判断が生死を分ける時代に入っています。

2. 果実袋の被覆による「秋満月」のみつ症軽減技術

  • 大果・高糖度品種「秋満月」において、果実袋を被覆することで直射日光による果実温度の異常上昇を遮断。
  • 無袋栽培と比較してみつ症の発生率および重症度を有意に軽減し、日焼け果を防止。

果実袋(被袋)による「秋満月」のみつ症・日焼け果抑制効果

無袋栽培(慣行) vs 二重被袋(遮光)での障害発生率・秀品率対比

千葉県農林総合研究センターの実証試験によると、大玉・高糖度品種「秋満月」において遮光二重袋を被覆することで、直射日光による果面昇温を約6〜7℃遮断。日焼け果・みつ症の発生を大幅に抑え込み、出荷秀品率を2.3倍(86.5%)まで高めることが実証されています。

※試験圃場での平均値。二重被袋区では果実温度が外気温並み(約34.8℃)に抑えられ、みつ症の重症果は確認されませんでした。

千葉県農林総合研究センター 令和7年度第63回試験研究成果発表会資料をもとに作成

千葉県農林総研の試験によると、無袋栽培では直射日光を受けた果実の表面温度が41℃を超え、これが細胞崩壊やソルビトール蓄積異常(みつ症)を直接誘発していました。遮光性を持つ果実袋(二重袋等)を被覆することで果面温度の上昇を外気温並み(約34〜35℃)に抑え込み、日焼け果をほぼシャットアウト(42%→2.5%)すると同時に、みつ症発生率を劇的に引き下げることが証明されています。

3. 振動硬度計を用いた非破壊みつ症重症果判別技術

  • 外見では分からないみつ症重症果を、打音・振動の伝播特性を計測する「振動硬度計」で非破壊判別。
  • 内部の果肉軟化やみつ浸潤度合いを音響振動の減衰波形から即座に判定し、出荷時のクレーム事故を未然に防止。

現場の農家個人にとっての「プラスとマイナス」

これらの新技術や対策アプローチは、現場の個人農家にどのようなメリットと現実的な負担をもたらすのでしょうか。技術特性と現場負荷を対比しました。

ナシ温暖化・酷暑対策技術の現場導入対比表

被袋・遮光ネット・微細散水・振動硬度計の費用対効果と現場負荷の比較

温暖化・酷暑による「日焼け・みつ症」「発芽不良」「出荷クレーム」に対し、千葉県農林総研等で実証されている主要な適応技術の特性と現場負荷を整理しました。

対策技術 主な抑制効果・対象課題 資材・設備コスト目安 現場の導入負担・留意点
果実袋の被覆(有袋栽培)
二重袋・遮光袋の装着
みつ症・日焼け果の激減
直射日光と果面昇温を遮断(-6〜7℃)
数円〜十数円 / 枚
袋資材費(大果用二重袋など)
即効性高 秀品率大幅向上
炎天下での袋掛け・除袋の手間増大。遮光による糖度上昇や着色の遅延に配慮した除袋時期の見極めが必要。
多目的防災網(遮光ネット)
園地全体の上部被覆
園地気温-2〜3℃、日焼け予防
雹(ひょう)・強風害も同時防止
50万〜120万円 / 10a
棚骨組み・ネット展張初期費用
恒久インフラ 樹勢維持・広域保護
初期投資大。遮光率が高すぎると花芽着生や糖度低下を招くため、開閉式ネットや適正遮光率(15〜20%)の選定が重要。
微細散水(ミスト・冠水冷却)
樹上ノズルからの間欠散水
気化熱で果温を3〜5℃降下
日中ピーク時の熱ストレス緩和
30万〜60万円 / 10a
配管・ノズル・自動制御タイマー
酷暑対策 果実温度の直接降下
十分な水量の確保が絶対条件。過剰散水による多湿化が黒斑病・輪紋病などの病害多発リスクを招くため湿度連動制御が必須。
振動硬度計(非破壊選果)
打音・音響振動による内部計測
外見判別不能なみつ症重症果を検出
内部発酵・崩壊果の誤出荷を阻止
数十万〜数百万円
可搬型機器または選果機組込
ブランド保護 クレーム事故の根絶
個別小規模農家単独での導入は割高。JA選果場のライン導入や広域産地での共同利用・直売所レンタルが現実的アプローチ。

※費用および削減効果は農林水産省・各県農総研公表データに基づく目安であり、園地環境や設備規模により異なります。

千葉県農林総合研究センターおよび農林水産省果樹温暖化適応策資料より整理

【プラス面】

  1. みつ症・日焼けによる出荷後クレームや廃棄ロスの根絶:二重被袋や振動判別により、高単価な大玉ナシの秀品率が安定。
  2. 高温年でも高付加価値な大玉・晩生ナシの作付け維持:「秋満月」や「新甘泉」「甘太」など、酷暑に弱い高糖度品種を自信を持って維持可能。
  3. 低温遭遇時間の数値化による授粉・着果計画の早期最適化:春の開花ズレを事前に予測し、花粉調達や臨時人手のシフトを計画的に配分。

【マイナス面(現場の苦渋)】

  1. 果実袋の資材費と炎天下での袋掛け・除袋労働の激増:1個あたり数円〜十数円の資材費に加え、猛暑下での上向き手作業は高齢化が進む現場に重い肉体的負荷。
  2. 遮光による糖度上昇・着色遅延とのトレードオフ管理:被袋期間が長すぎると着色や糖度乗りに影響するため、除袋タイミングのシビアな見極めが必須。
  3. 高額な非破壊判別機の個別導入困難:振動硬度計は個人農家が単独導入するには高額なため、JA選果場での導入や共同利用体制の構築が急務。

現場の農家が今すぐ起こすべき3つのアクション

  1. 自園地の日焼け・みつ症多発エリアのマップ化と袋選定の見直し
    棚の南端や日当たりが強すぎる区画を特定し、重点的に遮光二重袋を導入する区画別管理を実施。
  2. 冬季の「7.2℃以下遭遇時間」の積算モニタリング準備
    11月から園地近傍のアメダスや自前の温度ロガーで低温時間を積算し、春の発芽予測と休眠打破剤の要否を前もって判断。
  3. JA選果場のみつ症選果基準の確認と直売自主ルールの策定
    高温年のみつ症混入リスクを想定し、直売・通販での事前検品や顧客への注意書き周知などの自衛策を徹底。

私たちが開発する「農業日誌」でできること

  • 圃場・区画別の品種・棚位置マッピング(/fields):日焼け多発区画や品種ごとの袋掛け状況を直感的に台帳管理。
  • 環境センサー連携による園地温湿度のリアルタイム追跡と低温時間積算(/sensors):冬季の7.2℃以下積算時間や夏場の果面昇温リスクをデータで把握。
  • 袋掛け・授粉の作業工数と適期管理(/tasks, /task-records-report):区画ごとの袋掛け作業の進捗と人手コストを記録・可視化。
  • 果実袋・農業資材レシートのAI自動仕訳(/purchase-orders, /accounting):二重袋や資材購入の領収書を撮影するだけで会計に自動反映。

出典・参考リンク