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新規就農の制度と国の方針 — まず押さえる全体像

都道府県で前提が違うこと、国と鳥取県の主な支援、研修1年目で見えた農地と資金のギャップを整理します。

鳥取の豊かな農地と山並みを背景に就農計画を確認する新規就農者

就農を検討し始めたとき、最初にぶつかるのは「制度が細かく分かれすぎて、全体像が掴めない」ことです。

農業政策は「担い手への農地集積」や「規模拡大」という大きな言葉で語られがちですが、前提となる経営環境は地域でまったく違います。ここでは国の統計から方針の背景を見たうえで、鳥取県(倉吉農業改良普及所・令和8年度基準)の実例をベースに、主要な支援の仕組みと、現場で感じていることを書きます。

金額や要件は年度・自治体で変わります。以下の補助金の具体は令和8年4月・倉吉農業改良普及所の資料に基づきます。申請の前に、農林水産省と、就農予定地の市町村・都道府県窓口で最新を確認してください。

都道府県で異なる「農家の規模」という前提

1経営体当たりの経営耕地面積を見ると、北海道は30.2ha、鳥取県は1.5ha、東京や大阪は0.7haです。同じ「新規就農」でも、戦う土俵の前提がこれだけ違います。

経営耕地のある農業経営体。1経営体当たりは経営耕地面積÷経営体数。

都道府県 1経営体当たり 経営体数
全国 3.1ha 1,058,754
北海道 30.2ha 34,042
青森 3.5ha 28,589
岩手 3.1ha 34,598
宮城 3.5ha 29,614
秋田 4.0ha 28,610
山形 3.5ha 27,863
福島 2.3ha 41,557
茨城 2.4ha 44,236
栃木 2.9ha 32,506
群馬 2.1ha 19,694
埼玉 1.8ha 28,112
千葉 2.2ha 34,544
東京 0.7ha 5,096
神奈川 0.9ha 11,234
新潟 3.2ha 42,992
富山 4.0ha 12,215
石川 3.2ha 9,774
福井 3.1ha 10,434
山梨 0.9ha 14,920
長野 1.5ha 42,039
岐阜 1.5ha 20,783
静岡 1.4ha 25,432
愛知 1.7ha 26,006
三重 2.1ha 18,601
滋賀 2.9ha 14,570
京都 1.3ha 14,064
大阪 0.7ha 7,634
兵庫 1.2ha 37,807
奈良 1.0ha 10,800
和歌山 1.1ha 18,020
鳥取 1.5ha 14,310
島根 1.6ha 15,029
岡山 1.3ha 28,498
広島 1.3ha 22,047
山口 1.6ha 15,717
徳島 1.1ha 14,428
香川 1.1ha 16,365
愛媛 1.2ha 21,475
高知 1.1ha 12,550
福岡 2.2ha 27,928
佐賀 3.0ha 13,911
長崎 1.5ha 17,697
熊本 2.3ha 33,087
大分 1.7ha 18,819
宮崎 2.1ha 20,461
鹿児島 2.4ha 28,965
沖縄 1.8ha 11,081

2025年センサスの全国値は3.7ha(北海道34.5ha、都府県2.6ha)。都道府県の内訳は2020年の確定値。

出典:農林水産省「2020年農林業センサス」第2巻 農林業経営体調査報告書-総括編-「経営耕地の状況」

出典:農林水産省「2020年農林業センサス」。2025年センサス結果の概要では全国値は3.7ha(北海道34.5ha、都府県2.6ha)。都道府県別の内訳は2020年確定値です。

数字で見る農業の30年(就業者・農地・生産量)

基幹的農業従事者は、1995年の256.0万人から2025年には103.6万人へ、およそ半減しています。直近の令和6年白書では平均年齢が69.2歳、65歳以上が7割を超えています。

基幹的農業従事者数の推移

1995〜2025年(5年ごとの農林業センサス)

30年で256.0万人から103.6万人へ。半数以下になった。

0 100 200 万人 256 1995 2000 2005 205.1 2010 2015 2020 103.6 2025

2020年センサス以降は個人経営体。それ以前は販売農家。定義の接続には留意が必要。

出典:農林水産省「農林業センサス累年統計」(1995〜2015年・販売農家)、同「農業労働力に関する統計」(2020年・2025年・個人経営体)

基幹的農業従事者の年齢構成

令和6(2024)年

65歳以上が7割超。平均年齢は69.2歳。

  • 49歳以下 11.2%(12.5万人)
  • 50〜64歳 17.1%
  • 65歳以上 71.7%(79.9万人)

基幹的農業従事者数:111.4万人(令和6年)

出典:農林水産省「食料・農業・農村白書(令和6年版)」第3節(基幹的農業従事者数・年齢構成)

耕地面積(田畑計)は、1995年の503.8万haから2025年の423.9万haへ、約80万haが転用や荒廃で消えました。

耕地面積(田畑計)の推移

1995〜2025年・毎年7月15日現在

30年で503.8万haから423.9万haへ。約80万ha減った。

300 400 500 万ha 503.8 1995 2000 2005 459.3 2010 2015 2020 423.9 2025

田畑計。宅地等への転用や荒廃によるかい廃が続き、平成8年に500万haを下回った。縦軸は300万haから。

出典:農林水産省「耕地及び作付面積統計」累年統計(1995〜2021年)、同「農地に関する統計」(2022〜2025年)

生産量の推移です。

  • 主食用米(水稲収穫量):1,072.4万トン(1995年)→ 779.0万トン(2025年)。単収は上がっていますが、転作と作付面積の縮小が効いています。
  • 野菜(主要野菜計):1,691.5万トン(1995年)→ 1,206.8万トン(2024年)。緩やかに減っています。
  • 果実(国内生産量):424.2万トン(1995年)→ 244.7万トン(2023年)。約4割減です。

水稲の収穫量(子実用)の推移

1995〜2025年産・全国

30年で1,072.4万トンから779.0万トンへ。面積ほど一方的ではなく、作況で年による振れがある。

500 700 900 1100 万トン 1072.4 1995 2000 2005 847.8 2010 2015 2020 779 2025

収穫量(子実用)。ふるい目幅1.70mmで選別した玄米。飼料用米・WCS用稲などの青刈りは含まない。縦軸は500万トンから。

出典:農林水産省「作物統計調査」収穫量累年統計 水稲 全国(明治16年~令和7年)

野菜の収穫量(主要野菜計)の推移

1995〜2024年産・全国

1,691.5万トンから1,206.8万トンへ。米より水準は高いが、緩やかに減っている。

1000 1200 1400 1600 万トン 1691.5 1995 2000 2005 1336.5 2010 2015 2020 1206.8 2024

指定野菜と指定野菜に準ずる野菜などの主要野菜計。令和7年産は未公表。縦軸は1,000万トンから。

出典:農林水産省「作物統計調査」野菜生産出荷統計 主要野菜計(全国)の作付面積、収穫量及び出荷量累年統計(昭和48年~)

果実の国内生産量の推移

1995〜2023年度

424.2万トンから244.7万トンへ。みかん・りんごを含む果実全体で、約4割減った。

0 200 400 万トン 424.2 1995 2000 2005 296 2010 2015 2020 244.7 2023

果樹に作物統計の「主要野菜計」に相当する全国合計の累年はないため、食料需給表の国内生産量で見る。年度値。令和5年度まで。

出典:農林水産省「食料需給表」(令和5年度)品目別累年表・果実の国内生産量

人が減るなかで、1経営体あたりの管理面積は3.1haから3.7haへ広がっています。マクロの数字だけ追うと「大規模集約が正解」に見えます。ただ、中山間地が多い地域と広大な平地、施設園芸と土地利用型の稲作では、目指す経営の形が違います。同じ物差しでは測れません。

新規就農支援の起点「認定新規就農者制度」

公的支援の多くは、「青年等就農計画」を作って市町村の認定を受ける「認定新規就農者」になることが入口です。認定農業者は対象外です。

主な対象は次のとおりです。

  • 原則18歳以上45歳未満(市町村の基本構想や支援事業の枠組みにより、実質は50歳未満まで広がっていることが多い)
  • 特定の知識・技術を持つ65歳未満の中高年齢者
  • 農業経営を開始して5年以内の個人・法人

認定の目安は、市町村の基本構想に合うこと、年間就農日数150日以上を目安にした、続けられる営農計画であることです。計画どおり動かない、要件から外れる、といった場合は認定が取り消されることもあります。

農業経営の開始(就農)の時点は、農地の権利取得、機械・施設の取得、生産物を自分の名義で出荷・取引することなどが目安になります。いきなり畑を借りる前に、研修と計画づくりを挟む想定です。

主要な支援施策(国・鳥取県の具体例)

国の「新規就農者育成総合対策」を軸に、自治体の上乗せが組み合わされます。以下は令和8年4月・倉吉農業改良普及所資料に基づく鳥取県の例です。

1. 研修・生活費の支援

区分支援名称支給額・期間主な要件・留意点
就農準備資金165万円/年(最長2年)50歳未満。指定研修機関で年間1,200時間以上。世帯所得600万円以下。営農継続義務あり
経営開始資金165万円/年(最長3年)50歳未満。独立・自営就農直後。前年世帯所得600万円以下。地域計画の目標地図への位置付け等
就農研修交付金10万円/月(最長4ヶ月)農大アグリチャレンジ科受講者で、国の準備資金の対象外
就農応援交付金132万円/年(最長3年)国の開始資金の対象外向け。2年目以降は交付金を除く総所得350万円超で停止

就農準備資金は、県指定の研修機関での就農前研修中に出ます。鳥取県の資料では、農業大学校、担い手育成機構、日南町産業振興センター、JA鳥取中央(琴浦梨)などが例に挙がっています。使途を特定しない交付金で、補助率は国10/10です。交付期間中の報告、現地確認、就農後の継続義務があり、条件を外れると停止や返還もあり得ます。

国の準備資金は50歳未満が対象です。50歳以上でも、都道府県が独自の研修支援を置いていることがあります。対象外と決めつけず、就農予定地の窓口で確認した方がいいです。

県の就農応援交付金は、資料時点では国の開始資金の単価引き上げに合わせて11万円/月に調整中とされています。国の経営開始資金などを受けている人は対象外です。

2. 機械・設備の初期投資支援

区分支援名称補助上限・補助率主な要件・留意点
経営発展支援事業上限500万円(補助率: 国1/2、県1/4)。開始資金なしなら1,000万円50歳未満。複式簿記の記帳、普及所の指導。夫婦共同申請時は上限1.5倍。原則50万円以上の物件
就農条件整備事業上限1,600万円/5年(補助率: 県1/3、市町1/6)国事業の対象外となる機械・設備。1件あたり10万円以上、年間事業費合計30万円以上

経営発展支援事業は、経営開始5年後までに農業で生計が成り立つ計画、地域計画の目標地図への位置付け(または農地中間管理機構からの借地)も求められます。夫婦で共同申請すると上限がそれぞれ1.5倍になるので、二人で就農するときの実務上のポイントです。

県の就農条件整備事業は、国事業の補助対象は対象外です。親族(3親等以内)の経営を継承する場合は、従事してから5年以内に継承して経営開始し、所得・売上または付加価値額を10%以上増やす、あるいは生産コストを10%以上下げる計画が必要、といった条件もあります。

3. 雇用就農・融資

  • 雇用就農資金(国):農業法人が新規就農者を正規雇用して研修する場合、月5万円(最長4年)。採用時50歳未満、採用から4カ月以上1年未満など条件あり。
  • 青年等就農資金(日本政策金融公庫):無利子。限度額3,700万円(償還17年以内・据置5年以内)。

県には、雇用就農の上乗せ(農の雇用ステップアップ支援)、親元就農の研修経費、就農1年目のアドバイザー事業もあります。こちらも窓口で確認してください。

出典:倉吉農業改良普及所「新規就農関係の主な支援制度」(令和8年4月)。国・県・市町の分担や金額は、申請年度・市町村で変わることがあります。

研修1年目の実感 — 制度の図面と現場のずれ

いま夫婦で新規就農に取り組んでいて、研修1年目です。現場で動いてみて実感するのは、「資金の厚さ」と「農地確保の泥臭さ」のギャップです。

1. 農地確保は「人の縁」に委ねられる

制度の説明では、農地バンクや担い手機構が斡旋する、と描かれています。鳥取県でも、担い手機構のアグリスタート研修の中で農地の確保まで含む、という立て付けです。

実情は、研修先の親方の人脈に頼る比重が大きいです。親方に地縁があれば話は進みますが、地縁が薄いと、就農希望者が自分で農業委員会へ行き、地区の農業委員の方と空き農地を一筆ずつ確認して回ることになります。わたしたちは紹介でご縁をいただいて助かりました。図面上に空きがあっても、水利、日当たり、進入路の幅、地権者や集落の合意が揃うかは別問題です。農地情報が中央できれいに整備されているわけではないので、研修の早い段階から地域に顔を出しておく必要があります。

2. 新規事業としての資金支援は厚い

民間企業での事業立ち上げと比べると、農業の初期支援は厚いです。一般の創業では、立ち上げ期の生活費も設備も自己負担です。農業では準備資金・開始資金(年165万円)や設備補助(上限500万〜1,000万円、夫婦なら1.5倍)があります。要件は厳しく、返還もあり得ます。それでも、独立のハードルをかなり下げる制度だと思います。

税務と記録は、受給の前提になる

経営発展支援事業を受けるには、複式簿記による記帳が義務です。経営開始資金でも、日々の営農実績報告と確定申告の中身が審査されます。

世帯所得600万円の制限を見ながら、減価償却まで見据えて記帳するのは、就農後に始めればいい作業ではありません。研修中から身につけておく必要があります。「日々の作業記録」と「お金の出入り」を正確に残す体制を先につくっておくことが、支援を失効させずに経営を回す条件になります。

次にやること

制度を調べる段階から一歩進めるなら、次の三つです。

  1. 地域の普及所・農業委員会に会いに行く
    就農予定地の農業改良普及所や市町村窓口で、今年度の地域枠、補助金の執行状況、農地の動きを聞く。

  2. 研修機関・親方を、農地のパイプ込みで選ぶ
    技術だけではない。「独立するときに、地域の農地とつないでくれるか」を見て受入れ先を考える。

  3. 青年等就農計画の骨子と、記帳の習慣を同時に始める
    初期投資、想定売上、生活費を出し、複式簿記を前提に記録をスタートさせる。


参考リンク