冬の朝、ハウスを閉めたまま日が当たると、ピーマンの葉が炭酸ガス(CO2)を吸い、ハウスの中が外の空気(約420ppm)より薄くなることがあります。宮崎県総合農業試験場などがまとめた資料は、400ppm以下を「CO2が足りない状態」の目安にしています。
ただし、どのハウスでも足りなくなるわけではありません。宮崎県内のピーマンハウスで測ると、冬でも朝8時ごろまで1,000ppm以上ある例が少なくありませんでした。夜の呼吸、長年入れてきた土の有機物、保温用に重ねたカーテンで、CO2が外へ逃げにくいためと考えられています。CO2を施用するかどうかは、自分のハウスを測ってから決めます。
ピーマンで数字が出ている成果を、先に並べます。宮崎県の2つの試験に、夜の温度を時間で変えた茨城県の例を加えています。どれも慣行と比べた結果です。
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CO2局所施用(宮崎県総合農業試験場)
+18%液化炭酸ガスをリーキパイプで株の茂みの中へ送り、目標は600ppmです。0.5aの試験ハウスで、売れる実が18%増えました(全体施用は19%増)。換気したあとも茂みの中の濃度をやや保てますが、導入費とガス代は全体施用より高くなります。
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局所加温+ヒートポンプ(宮崎県総合農業試験場)
燃料−85%ハウスの最低温度を16℃、株元のトンネルの中を19℃にして暖めました。最低18℃で暖める慣行と比べ、燃料の使用量は85%、ランニングコストは55%減り、収量はほぼ同じでした。
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変夜温(茨城県・参考)
重油−10%日没6時間後〜日の出4時間前を15℃、それ以外を18℃にして、重油代が約10%減りました。CO2施用・ミストと組み合わせた区で、収量は約35%増えています。草勢と収量が安定している条件で入れます。
宮崎の18%は、CO2を施用しない区と比べた売れる実(可販果)の増え方です。茨城の35%は、CO2施用・ミスト・変夜温の3つを組み合わせた区の結果です。それぞれの出典は、記事の最後に載せています。
1. まず、自分のハウスのCO2を測る
結論:施用を決める前に、冬の晴れた日に測る
400ppmを下回る時間があるかどうかで決める
ハウスごとに、栽培の履歴、温度管理、株の数、ハウスの容積、閉め方が違います。CO2が足りなくなるかどうかも、ハウスごとに違います。
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12〜1月の晴れた日を含む数日
いつCO2が足りなくなりやすい低温期に測ります。測定器(データロガー)は、測る前に校正します。
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ハウスの中央、株の高さの真ん中
どこ測定器が2台あれば、株の茂みの中と通路で測ります。茂みの中が低ければ、葉が吸っている分がわかります。
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400ppm以下になる時間があれば施用する
判断外気より低い400ppm以下が、CO2が足りない状態の目安です。午前中、換気する前の閉めている時間に施用すると効果が高いとされています。
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目標を下回る30分〜1時間前から送る
開始宮崎の目安では、ピーマンは11月上・中旬から始めます。株間50cm(10aあたり1,100本以下)なら、目標は600ppmです。
宮崎の調査では、冬でも朝8時ごろまで1,000ppm以上あるピーマンハウスが少なくありませんでした。測らずに施用すると、ガス代だけが増えることがあります。
出典:暖地施設園芸コンソーシアム「暖地の促成栽培に関する研究プロジェクト 成果普及マニュアル」(平成28年2月、宮崎県総合農業試験場ほか)
晴れた日は昼にハウスの温度が上がって換気するため、外からCO2が入ります。宮崎の測定では、晴れた日の日中は330〜380ppmで推移し、夕方に閉めると250〜300ppmまで下がりました。曇りの日は、温度を保つために換気が少なくなり、外気より低い時間が長くなります。
CO2の測定器は、濃い場所で使い続けると数値がずれます。導入するときに校正の方法を確認し、定期的に補正します。
2. 株の茂みの中へ送る「局所施用」
宮崎県で多く使われているのは、灯油を燃やしてCO2を出す発生機です。送風機とダクトでハウス全体を濃くします(全体施用)。設置しやすく、暖める効果もありますが、換気が始まると濃度を保てません。
局所施用は、液化炭酸ガスを気化させ、リーキパイプ(地中かん水用の、細かい穴の空いたゴムのチューブ)で株の茂みの中を中心に送る方法です。熱も風も出ません。
結論:換気中も施用を続けるなら、株の茂みの中へ送る
全体施用は換気まで、局所施用は換気後もやや残る
各図の上の文が天窓、下の枠がハウスの断面です。左は灯油を燃やしてハウス全体を濃くする方法、右は液化炭酸ガスを株の茂みの中へ送る方法です。
ハウス全体を濃くする
全体施用換気が始まると、濃度を保ちにくい
天井付近まで濃くする
株の高さも同じ濃さ
灯油を燃やす発生機から、送風機とダクトで送る
設置しやすく、暖める効果もあります。既存のダクトを使えれば費用は安めです。
株の茂みの中へ送る
局所施用換気しても、茂みの中はやや高く残る
天井付近は外気に近い
株の茂みの中を目標600ppm
液化炭酸ガスを、リーキパイプで送る
熱も風も出ません。チューブは細く、収穫の邪魔になりません。導入費とガス代は高めです。
どちらを選ぶか
換気する前の、閉めている時間だけ施用する → 全体施用でも足りる
換気している時間も施用を続けたい → 局所施用のほうが無駄が少ない
宮崎の現地のピーマン圃場では、局所施用を午後3時まで目標600ppmで続けると、換気したあとも茂みの中の濃度をやや高く保てました。全体施用は、換気が始まると目標の濃度を保てませんでした。
出典:暖地施設園芸コンソーシアム「暖地の促成栽培に関する研究プロジェクト 成果普及マニュアル」(平成28年2月、宮崎県総合農業試験場ほか)
増収の大きさは、ピーマンでは2つの方法でほぼ同じでした。
結論:ピーマンでは、局所施用も全体施用も2割近く増えた
CO2を施用しない区と比べた、売れる実(可販果)の増え方
ピーマンの小型ハウス(0.5a・株間50cm)では、局所施用18%、全体施用19%でほぼ同じでした。局所施用が上回ったのはキュウリです。
ピーマン
0.5aの小型ハウス・株間50cmキュウリ
0.5aの小型ハウス・株間50cmキュウリ
現地圃場・株間55cm(1月末までの収量)小型ハウスは、閉めたときにCO2が400ppm以下まで下がる条件の試験です。ピーマンの現地圃場は、CO2の濃度の推移を比べた試験で、収量の数字はありません。
出典:暖地施設園芸コンソーシアム「暖地の促成栽培に関する研究プロジェクト 成果普及マニュアル」(平成28年2月、宮崎県総合農業試験場ほか)
局所施用の強みは、換気している時間も施用を続けられることです。一方で、宮崎の資料は「導入費もランニングコストも全体施用より高い」としています。朝の閉めている時間だけ施用するなら全体施用、換気中も続けたいなら局所施用、という選び方になります。
液化炭酸ガスのボンベは、直射日光が当たらないように日よけをします。
3. CO2を入れたら、水と肥料も増やす
結論:CO2を入れたら、追肥とかん水も慣行より増やす
増収しないときは、水と肥料の不足が多い
CO2は光合成の原料のひとつです。光と水と肥料が足りなければ、CO2だけを増やしても実は増えません。
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CO2を入れると、光合成が進む
CO2実が増えれば、そのぶん水と肥料も多く使います。
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水と肥料が慣行のままだと、増収が出にくい
不足宮崎の資料は、CO2施用で増収しない場合、かん水や施肥の不足が原因のことが多いとしています。
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フィルムが汚れていても、効きは落ちる
光展張から年数がたったフィルムで、光を通す割合が80%以下なら、洗浄や張り替えを考えます。
追肥とかん水を、慣行より10〜30%増やす
対策増やす幅は土質で変わります。株の硝酸イオン濃度や、土のEC・pHを測って加減します。
10〜30%は、宮崎の資料が示す目安です。
出典:暖地施設園芸コンソーシアム「暖地の促成栽培に関する研究プロジェクト 成果普及マニュアル」(平成28年2月、宮崎県総合農業試験場ほか)
4. 暖房の燃料を減らす:株元を暖める
宮崎県総合農業試験場は平成25〜27年度に、ヒートポンプと高効率の保温資材を使い、ハウスの最低温度を16℃、株元に作った小さなトンネルの中を19℃にして暖める試験をしました。最低18℃で暖める慣行と比べると、燃料の使用量は85%、ランニングコストは55%減り、収量はほぼ同じでした。
試験場と長友農機が開発した高効率の保温カーテン(アルミ蒸着シート、フィルム、発泡資材の3層)も、燃料を減らしています。
結論:株元を暖めると燃料は85%減、費用は55%減
慣行を100としたときの、残る分と減った分
上の2本は、ヒートポンプと株元のトンネルを組み合わせた宮崎の試験です。下の1本は、宮崎で開発した保温カーテンを、国富町の現地ハウスで比べた結果です。
局所加温の試験は、最低16℃・株元のトンネル内19℃と、慣行の最低18℃を比べたもので、収量はほぼ同じでした。保温カーテンは平成26年12月1日〜27年2月2日の比較で、A重油は883Lと1,684Lでした。
出典:宮崎県総合農業試験場「暖地における局所加温を利用したピーマン省エネ栽培技術の開発」(平成25〜27年度)、暖地施設園芸コンソーシアム「成果普及マニュアル」(平成28年)
ヒートポンプだけに頼らない
結論:ヒートポンプを入れても、今の暖房機は残す
いちばん冷える夜に、ヒートポンプだけでは足りないことがある
ヒートポンプは、外の空気から熱をくみ上げてハウスを暖めます。外が冷えるほど、くみ上げられる熱は減ります。
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外が冷えるほど、暖める力が落ちる
外気外気温が下がるほど、暖房の能力も効率も下がります。
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室外機に霜が付くと、霜取りのあいだ暖房が止まる
霜取り外気温が低く湿った夜に起きやすい運転です。そのあいだ、ハウスへは熱が来ません。
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晴れた夜は、ハウスがさらに冷える
放射冷却明け方の冷え込みで、ヒートポンプだけでは設定温度を保てないことがあります。
暖房機は、ヒートポンプより低い温度に設定して待たせる
備えふだんはヒートポンプが動き、室温が下がりすぎたときだけ暖房機が点火します。
設定温度の差は、機種とハウスの保温性で変わります。販売店や普及指導員と相談して決めてください。
出典:本稿の整理(ヒートポンプと燃油暖房機を組み合わせる一般的な使い方)
夜の温度を時間で変える(茨城県の例)
茨城県は、日没6時間後から日の出4時間前までを15℃、それ以外の時間を18℃にする変夜温管理で、重油代を約10%減らしました。CO2施用・ミストと組み合わせた区での結果です。茨城県は、変夜温管理は「CO2施用などで草勢と収量が安定した条件で行う必要がある」としています。
夜の温度をどこまで下げられるかは、品種、作型、草勢で変わります。宮崎の局所加温の試験でも、ハウスの最低温度は16℃でした。下げるときは、普及指導員やJAの指導に合わせて少しずつ試します。
日の出前に暖房を一気に強めると、室温だけが先に上がり、冷えた葉や実に水滴が付きます。灰色かび病の原因になるので、急に上げず、循環扇で空気を動かしながら暖めます。
5. 費用の見方
CO2施用や変夜温は、売上を増やす一方で、機械と燃料の費用も増やします。茨城県の試算では、増えた売上の大半が費用で消えています。
結論:増えた売上の大半は、機械と燃料の費用で消える
茨城県の試算。2a(200㎡)あたり、慣行との差
CO2施用・ミスト・変夜温を組み合わせた区では、収益が約19万円増えました。機械の導入費と燃料費も約17万円増え、手元に残った所得は約1.9万円です。
増えた経費は、重油代が26,604円減ったあとの額です。10aに単純に換算すると、所得の増加は約9.6万円です。
出典:茨城県「施設ピーマンでは炭酸ガス施用などの環境制御技術により収量及び所得が向上します」(令和3年度 普及に移す成果)
茨城県の別の取り組みでは、半促成栽培でCO2を施用したハウスの収量が慣行より20%多く、10aあたりの売上は約140万円、所得は17万円増えました。
自分のハウスで計算するときは、次の項目を入れます。
- 増えるもの:売上
- 減るもの:重油代
- 増える費用:機械の償却、液化炭酸ガスや灯油の代金、ヒートポンプの電気代、増やした肥料と水、増えた収穫・出荷の手間
補助金で導入時の負担は減りますが、ガス代や電気代など毎年の費用は減りません。
まとめ
冬のピーマンのCO2施用は、自分のハウスで400ppmを下回る時間があるかを測ってから決めます。宮崎の試験では、局所施用と全体施用のどちらでも、売れる実が2割近く増えました。局所施用は換気中も続けられますが、費用は高めです。CO2を入れたら、追肥とかん水も慣行より増やします。
暖房は、株元を暖める方法で燃料を大きく減らせた試験があります。ヒートポンプを入れても今の暖房機は残し、夜の温度を下げるときは少しずつ試します。
まずは12〜1月の晴れた日に、CO2の測定器をハウスの中央に置くところから始めてみてください。