8〜9月に出荷するサツマイモは、掘ってすぐに出すので、甘みが弱く、肉質が粉っぽくなりがちです。
茨城県の試験では、早掘りした「べにはるか」を土付きのまま13℃で2週間貯蔵すると、ショ糖が増え、焼き芋の評価が上がりました。11℃でも甘くなりますが、2週間置くと一部に異臭や雑味が出ています。
この方法で貯蔵したべにはるかは、JAなめがたしおさいの試験販売で、通常品の1〜2割高で取引されました。
茨城の試験:13℃と11℃で、早掘りのべにはるかを貯蔵した結果
2019年、行方市産。8月12日に収穫し、8月16日から貯蔵。湿度は90%
比べた相手は、倉庫で常温(平均28.3℃)のまま置いたイモです。13℃区と11℃区は、どちらも常温区より甘くなりました。
| 見る点 | 13℃区 | 11℃区 | 資料の結論 |
|---|---|---|---|
| ショ糖(生いも) | 常温区より多い | 常温区より多い | 1週間で急に増える 10日後までゆるやかに増え、2週間後は横ばい |
| 甘さ 貯蔵10日後 | 常温区より強い | 13℃区より強い | 10日なら11℃ |
| 総合評価 貯蔵2週間後 | いちばん高い | 13℃区の次 | 2週間なら13℃ |
| 異臭・雑味 貯蔵2週間後 | — | 一部の評価者が指摘 | 結論 13℃で2週間が適当 安定して甘くするための条件として、資料が示した値 |
※焼き芋(200℃で90分)を、JAなめがたしおさいの職員15〜20名が5段階で評価しました。茨城県での試験結果で、産地・作型・品種が違うと、同じ効果が出ない可能性があります。
出典:荒木田尚広「早掘りサツマイモの低温貯蔵による食味向上技術」(いも類振興情報145号、2020年) をもとに作成
1. 8〜9月のサツマイモが甘くない理由
茨城県行方地域のJAなめがたしおさいは、3品種をリレーして1年中出荷しています。それでも、8〜9月は食味が落ちます。理由は、次の図の通りです。
8〜9月は、前年産も早掘りも食味が落ちる
茨城県行方地域。3品種をリレーしても、この時期は甘くなりにくい
JAなめがたしおさいは、「べにはるか」「べにまさり」「ベニアズマ」を時期でリレーして、1年中出荷しています。
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6月まではよいが、7月以降は食味が落ちる
前年産長く貯蔵した前年のイモです。7月以降は、食味が低下します。
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掘ってすぐ出すので、粉質で甘みが少ない
早掘り茨城県では、4月中〜下旬に苗を植え、8月中旬〜9月上旬に収穫します。品種は、貯蔵中に比較的早く甘くなるべにはるかと、太りやすいベニアズマです。
この時期の出荷は、ほかの時期より食味が落ちる
8〜9月量販店の店頭で焼く焼き芋は、夏にも需要があります。ただし、甘い品種でも掘った直後は焼き芋にしても甘みが少なく、9月においしい焼き芋を出すことが課題になっていました。
出典:荒木田尚広「早掘りサツマイモの低温貯蔵による食味向上技術」(いも類振興情報145号、2020年)、農研機構「9月期においしい焼き芋を供給するための嗜好性調査によるかんしょ貯蔵方法の選定」(2019年度 研究成果情報) をもとに筆者が整理
2. 茨城の試験:13℃と11℃で2週間
13℃でも11℃でも、常温で置いたイモより甘くなりました。 安定して甘くするには、13℃で2週間が適当、というのが資料の結論です。
イモを適度な低温に当てると、貯蔵中にデンプンが糖に変わる「糖化」が早まることは、以前から知られていました。茨城県は、これを早掘りのべにはるかで確かめています。
試験は、茨城県農業総合センター農業研究所が行いました。2017年に所内で予備試験をし、2018〜2019年にJAなめがたしおさいのキュアリング庫で現地試験をしています。焼き芋の糖の分析は、農研機構が担当しました。
2019年の試験の流れは、次の図の通りです。
2019年の試験:収穫から2週間後まで
行方市産のべにはるか。13℃、11℃、常温の3つ
13℃区と11℃区は、加湿機能付きのキュアリング庫で湿度90%にしました。常温区は、日の当たらない倉庫です。
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収穫して、常温で置く
8月12日行方市産の早掘りのべにはるかです。貯蔵を始めるまで、常温で取り置きしました。
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3つの温度で貯蔵を始める
8月16日13℃と11℃は湿度90%。常温区の平均は28.3℃(最高35.2℃、最低24.4℃)でした。
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ショ糖が急に増える
1週間後低温の2区は、どちらも常温区よりショ糖が多くなりました。資料の調査日は8月23日です。
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ショ糖はゆるやかに増える。甘さは11℃が一番
10日後焼き芋の甘さと総合評価は、11℃、13℃、常温の順でした。
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ショ糖は横ばい。総合は13℃が一番
2週間後甘さは13℃と11℃が同じくらいです。11℃は、一部の評価者から異臭や雑味が出ました。
※焼き芋は、Mサイズを1区4本、200℃で90分焼いて評価しました。資料は、10日後と2週間後の調査日を、どちらも8月30日と書いています。
出典:荒木田尚広「早掘りサツマイモの低温貯蔵による食味向上技術」(いも類振興情報145号、2020年) の「材料及び方法」「結果」をもとに筆者が整理
生いもの甘さは、ショ糖の量に加えて「甘味度」でも見ています。甘味度は、ショ糖に1、麦芽糖(マルトース)に0.4、ブドウ糖に0.7、果糖に1.2を掛けて足した値です。低温の2区は、ショ糖も甘味度も、常温区より高くなりました。
焼き芋の評価は、10日後と2週間後で、一番になる温度が入れ替わります。
焼き芋の評価は、10日後と2週間後で一番の温度が入れ替わる
5段階の絶対評価。本文に書かれた順番
10日後は、甘さと総合が11℃いちばんです。2週間後は、総合が13℃に代わります。
| 項目 | 10日後 | 2週間後 | 資料の読み方 |
|---|---|---|---|
| 甘さ 1が悪い、5が大変良い | 11℃、13℃、常温の順 | 13℃と11℃が同じ 常温が劣る | 10日なら11℃ |
| 肉質 1が粉質、5が粘質 | 13℃と11℃が同じ | 11℃、13℃、常温の順 | 2週間は11℃がしっとり 粘質(しっとり)の順です |
| 総合評価 1が悪い、5が大変良い | 11℃、13℃、常温の順 | 13℃、11℃、常温の順 | 入れ替わり 2週間なら13℃ |
| 異臭・雑味 | — | 11℃の一部が指摘 | 安定させるなら13℃ 資料の結論は、13℃で2週間 |
※評価者は、JAなめがたしおさいの職員15〜20名です。点数そのものは本文に書かれていないので、本文の順番を載せています。
出典:荒木田尚広「早掘りサツマイモの低温貯蔵による食味向上技術」(いも類振興情報145号、2020年) の図4の説明をもとに作成
資料は、甘くするには「11℃で10日」か「13℃で2週間」が適するとしています。そのうえで、安定して甘くするには13℃で2週間が適当だとしています。
3. 手順と注意点
収穫から出荷まで:土付きのまま、13℃で2週間
茨城県の早掘り栽培は、4月中〜下旬に植え付け、8月中旬〜9月上旬に収穫
洗ってから貯蔵すると、腐るおそれがあります。洗うのは、貯蔵が終わってからです。
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土付きのまま貯蔵庫へ
収穫洗わずに、土が付いたまま貯蔵します。
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13℃で2週間
貯蔵試験は湿度90%で管理しました。設定より低い温度に当てないよう、冷風が直接イモに当たらないようにします。
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終わったら、すぐ洗って選別
出荷貯蔵が終わったら、速やかに洗浄・選別して出荷します。
※試験では、キュアリング庫(加湿機能付き)の冷蔵機能を使って温度を保ちました。
出典:荒木田尚広「早掘りサツマイモの低温貯蔵による食味向上技術」(いも類振興情報145号、2020年) の「技術活用上の注意点」をもとに筆者が整理
茨城県の資料が挙げている注意点は、次の3つです。
- 土付きのまま貯蔵します。 洗ってから貯蔵すると、腐るおそれがあります。
- 冷風を直接イモに当てません。 設定した温度より低い温度に当たるのを防ぐためです。
- 貯蔵が終わったら、すぐに洗浄・選別して出荷します。
設備は、すでにある貯蔵庫を使う前提です。資料は、茨城県で広く使われているキュアリング庫や定温貯蔵庫の冷蔵機能を使えば、初期費用を低く抑えられるとしています。資料は、前年産のイモをもっと長く貯蔵する方法も検討しましたが、貯蔵庫を長く運転し続ける費用がかかるため、実用的ではないと判断しています。
低温に弱いことは忘れない
サツマイモは熱帯原産で、低温に弱い作物です。農研機構の資料では、貯蔵に適した温度は13〜14℃、湿度は90%前後です。9℃以下で貯蔵すると、低温障害が出やすくなります。乾燥にも弱く、湿度が低いと、しおれたり重さが減ったりします。
キュアリングは試験の手順に入っていない
キュアリングは、収穫したイモを高温・多湿に置いて、傷の下にコルク層を作らせ、貯蔵中の腐れを防ぐ技術です。農研機構の資料では、一般に温度30〜35℃、湿度90〜99%で3〜4日置きます。
茨城県の試験は、収穫したイモを常温で置いてから低温貯蔵を始めています。低温貯蔵の前にキュアリングをするかどうかは、資料には書かれていません。
4. 9月に売ったときの評価
農研機構は、茨城県、JAなめがたしおさいと一緒に、低温貯蔵したべにはるかを消費者や取引先に評価してもらいました。
2018年9月上旬の消費者調査(有効回答60人)では、流通の1週間を見込んで、4種類の焼き芋を比べています。
- 3週間常温で置いたべにはるか
- 13℃で2週間貯蔵したあと、1週間常温で置いたべにはるか
- 11℃で2週間貯蔵したあと、1週間常温で置いたべにはるか
- 13℃で1年間貯蔵したあと、1週間常温で置いたベニアズマ
糖度が高かったのは、13℃と11℃で2週間貯蔵したべにはるかです。評価と購入意向も、この2つが高くなりました。しっとりした焼き芋が好きな人は、この2つの評価が特に高くなっています。
2018年9月には、13℃で2週間貯蔵したべにはるかを、JAなめがた(現JAなめがたしおさい)の主な流通先で試験販売しました。
13℃で2週間貯蔵したべにはるかを、通常品より高くても買うか
2018年9月の試験販売で購入した実需者へのアンケート(有効回答41人)
1割高までなら90%が、2割高までなら24%が「買う」と答えました。
※JAなめがた(現JAなめがたしおさい)の主要な流通チャネルで販売した結果です。
出典:農研機構「9月期においしい焼き芋を供給するための嗜好性調査によるかんしょ貯蔵方法の選定」(2019年度 研究成果情報) 表3
2018年と2019年の9月の試験販売では、通常のべにはるかより1〜2割高の価格で取引されています。
5. 自分の産地で試すときに確かめること
ここまでの数字は、茨城県産のべにはるかとベニアズマを使った試験の結果です。農研機構の資料は、ほかの地域では、貯蔵の温度や期間を少し調整する必要があるとしています。茨城県の資料も、産地・作型・品種が違うと、同じ条件で効果が出ない可能性があるとしています。
試す前に、次の点を確かめておきます。
- 収穫の時期:茨城県の早掘りは、4月中〜下旬に植えて8月中旬〜9月上旬に掘る作型です。自分の作型がどれくらい違うか。
- 使える貯蔵庫:13℃を2週間保てる定温貯蔵庫やキュアリング庫があるか。湿度を保てるか。
- 庫内の温度のむら:冷風が直接当たる場所や、設定より冷える場所がないか。
- 試し方:初めは少ない量で貯蔵し、焼き芋にして甘さを確かめる。条件は、県の普及指導員やJAに相談します。
まとめ
茨城県の試験では、早掘りしたべにはるかを土付きのまま13℃で2週間貯蔵すると、常温で置いたイモよりショ糖が増え、焼き芋の評価が上がりました。11℃は10日なら評価が高いものの、2週間では一部に異臭や雑味が出ています。
この方法で貯蔵したべにはるかは、9月の試験販売で、通常品の1〜2割高で取引されました。ただし、茨城県での試験結果です。
まずは手元の貯蔵庫が13℃を2週間保てるかを確かめ、少ない量から試してみてください。
出典・参考リンク
- 荒木田尚広「早掘りサツマイモの低温貯蔵による食味向上技術」(いも類振興情報145号、2020年10月・PDF)(茨城県の試験の方法と結果、注意点)
- 農研機構「9月期においしい焼き芋を供給するための嗜好性調査によるかんしょ貯蔵方法の選定」(2019年度 研究成果情報)(消費者調査、試験販売の価格と購入意向)
- 農研機構「《こぼれ話65》輸出用サツマイモの腐敗低減技術を開発」(貯蔵の適温と湿度、低温障害、キュアリングの一般的な条件)