高知県は冬春ナスの大産地です。ハウスの中では、CO2(炭酸ガス)の施用、日射に合わせたかん水、天敵などを組み合わせて農薬だけに頼らない防除(IPM、総合的病害虫管理)が広く使われています。
先に、収量の目安を書いておきます。冬春ナスの生産量が日本一の安芸地域では、JA高知県安芸地区園芸研究会ナス部会の平均出荷量が、平成29〜令和2園芸年度に10aあたり12.9〜14.2tでした。高知県はIoP(Internet of Plants)の取り組みで、ナスの10aあたり収量を「従来13t → 次世代型17t → Next次世代型20t(最大30t)」に上げる目標を掲げています。30tは目標の上限で、達成した数字ではありません。
高知県農業技術センターなどの試験で出ている成果を並べます。
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CO2施用(高知県農業技術センター)
+6%‘土佐鷹’の試験で、売れる実(可販果)がCO2を施用しない区より6%増えました。冬の12〜4月に限ると12%増、A品(上品)は全期間で32%増です。
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CO2施用+温度管理の見直し(同)
25.3tCO2を400ppmで施用したうえで、オランダの温度管理を参考に、1日の温度の配分を変えた区の可販果収量です。慣行の温度管理は23.7tで、差は1.5t/10aでした。
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天敵を使ったIPM(安芸地域)
防除時間−73%安芸農業振興センター管内の施設ナスで、防除の時間がIPMを入れる前(1998年)より73%減りました。農薬費は、天敵を使わない場合より35〜53%少なくなっています。
センターの試験は、所内のハウスで条件をそろえて比べたものです。安芸地域では、環境制御の機器を入れたあとも収量が増えなかった農家が35%いました(平成28年と30年の比較、153戸)。機器を入れるだけでは増えない、という前提で読んでください。
1. CO2施用:増えたのは冬から春の収量
換気の少ない冬は、ハウスの中のCO2が足りなくなることがあります。高知県のキュウリの事例では、施用しないハウスの中が日中に外気(約400ppm)より薄くなり、晴れた日ほど下がりました。朝は土や株の呼吸で濃度が高めです。
結論:いちばん濃くしたのは換気前。換気後と春は設定を下げた
高知県のナス・キュウリの資料にある濃度の設定
キュウリの事例の資料は、CO2を施用するだけで増収するわけではなく、草勢や着果に合わせたかん水・施肥・温湿度の管理が必要だとしています。
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まず、晴れた日に400ppmを下回る時間があるか見る
測るキュウリの事例では、朝は土や株の呼吸で濃度が高めでした。施用しないハウスでは、日中に外気(約400ppm)より下がり、晴れた日ほど下がっています。
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日の出から換気を始めるまでは1,000ppm
換気前2012〜13年の試験の設定です。設定値より50ppm下がったら施用を始め、50ppm上回ったら止めました。
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換気を始めたら600ppm、12〜16時は500ppm
換気後3月11日以降は換気後を500ppm、4月2日以降は400ppmに下げています。
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2015〜16年は、日の出から日の入り30分前まで400ppm
別の試験液化炭酸ガスを株の下のチューブから送りました。この試験は両方の区でCO2を施用し、温度管理の違いを比べたものです。
キュウリの事例では灯油を燃やす発生機を、センターの2015〜16年のナスの試験では液化炭酸ガスを使っています。
出典:高知県農業技術センター「炭酸ガスの施用が促成ナスの生育、収量に及ぼす影響」(センターニュース第76号)、出典:高知県農業技術センター「ナス促成栽培における炭酸ガス施用条件下でのオランダ参考温度管理」(平成25〜27年度)、JA高知春野・高知農業改良普及所「キュウリ促成栽培での炭酸ガス施用効果(PR版)」(平成29年7月作成、朝と日中の濃度)
2012〜13年の試験では、CO2を施用した区のほうが葉が大きく、草勢が強くなりました。雌花の数と収穫した実の数も増え、首の細い実(首細果)が減っています。
結論:施用した12〜4月から増え、5〜6月も多いまま
CO2を施用しない区を100としたときの収量(‘土佐鷹’、2012〜13年)
施用期間は11月21日〜4月30日です。12〜4月は可販果が112、A品が159でした。施用を終えた5〜6月も110と128です。10〜11月はほとんどが施用前の期間で、可販果は85でした。
10〜11月
施用開始(11月21日)の前が中心12〜4月
CO2施用の期間5〜6月
施用を終えたあと全期間
10〜6月の合計開花から収穫までの日数(上品として収穫した実の平均)は、施用した区が24.7日、施用しない区が25.5日でした。差がいちばん大きかった1月は29.2日と32.0日です。
出典:高知県農業技術センター「炭酸ガスの施用が促成ナスの生育、収量に及ぼす影響」(センターニュース第76号)
可販果は、施用した12〜4月に12%、施用を終えた5〜6月に10%増えました。10〜11月はほとんどが施用前の期間で、施用しない区より少なくなっています。
開花から収穫までの日数も、平均で施用した区が24.7日、施用しない区が25.5日で、施用した区のほうが短くなりました。
発生機と、液化炭酸ガス
高知県の2020年の資料では、県内に炭酸ガス発生機が1,110台・約138ha入っています。JA高知春野・高知農業改良普及所のキュウリの事例では、灯油を燃やす発生機(1時間に8.0kgのCO2を出す機種)を使っています。
センターの2015〜16年の試験では、液化炭酸ガスを株の下に置いたチューブから送っています。ガス代と設備の費用は、使う量と方法で変わるので、販売店に見積もりを取って比べます。
2. CO2施用のもとで温度管理を変えると、収量が増えた
センターは2015〜16年に、CO2を400ppmで施用したハウスで、オランダの温度管理を参考にした方法を試しました。24時間の平均温度は慣行とほぼ同じにそろえ、時間帯ごとの温度の配分だけを変えています。
- 早朝:日の出の2時間前から暖め、14℃を下回らないようにする(慣行は6時から日の出まで)
- 日中:日の出後20℃で換気を始め、正午までは25℃、正午から日の入りまでは28℃(慣行は午前28℃、午後25℃)
- 夜:日の入り〜20時は14℃、20時〜0時は11℃、0時〜日の出2時間前は12℃(慣行は20時〜0時が12℃、0時〜6時が10℃)
可販果の収量は25.3t/10aで、慣行の温度管理の23.7tより1.5t多くなりました。A品は18.3tと16.1tで、13%の増加です。重油の使用量は、慣行とほぼ同じでした。
午前中に急に温度を上げないことと、午後に温度を高めに保つことが、慣行との大きな違いです。
3. かん水:日射比例だけだと、春に湿りすぎることがある
高知県のナス産地では、点滴チューブを使った日射比例のかん水装置が普及しています。日射比例は、日射の積算が設定値に届くたびに水をやる方法です。晴れた日は回数が増え、曇りの日は減ります。
センターは2022〜23年に、日射比例だけの区と、土壌水分センサーで回数を補正する区を比べました。土が基準より湿っていれば回数を減らし、乾いていれば増やす方法です。
結論:土の水分で補正すると、水は減って収量は同じ
晴れた日1日あたりのかん水量(t/10a)。‘土佐鷹’、2022〜23年
日射比例のみの区は、春に向かって土が湿りすぎ、3月ごろからpF1.0以下の過湿になりました。土壌水分センサーで回数を補正した区は、水量が少なく、含水率の上がり方も穏やかでした。
12月上旬
2月上旬
3月上旬
4月中旬
5月下旬
6月中旬までの可販果収量は、日射比例のみが16.3t/10a、補正した区が16.6t/10aで、差は見られませんでした。CO2は施用していない試験です。
出典:高知県農業技術センター「土壌水分状態と日射量に基づく施設ナスのかん水管理技術の開発」(センターニュース第113号、2023年)
補正した区は、どの時期も水が少なくて済み、収量は同じでした。日射比例の設定のままだと、春に向かって土が湿りすぎることがあります。この試験の日射比例だけの区は、3月ごろからpF1.0以下の過湿になりました(pFは土の湿り具合の目安で、数字が小さいほど湿っています)。土壌水分計(pF計)を入れて、設定を見直す目安にします。
2015〜16年の温度管理の試験では、土の水分(pF)でかん水を決めていました。午前8〜9時にpF1.7〜1.8以上なら、1回に1㎡あたり5〜8Lをやっています。
4. 天敵:2種を組み合わせ、病気の予防は別に考える
高知県の施設ナスでは、天敵の利用がほぼ当たり前になっています。令和7年の県のまとめでは、ナス類で天敵を使っている農家は99%(面積では98%)でした。
主に使われているのは、市販のスワルスキーカブリダニと、土着天敵のタバコカスミカメです。タバコカスミカメはもともと高知の野外にいる虫で、ゴマやクレオメ、バーベナを植えたハウスで増やせます。県内では、空いたハウスでゴマなどを育てて増やし、ナスのハウスに放す農家がいます。
結論:2種の天敵は、得意な害虫が違うので組み合わせる
施設ナスでのスワルスキーカブリダニとタバコカスミカメ
アザミウマとコナジラミが混じっていると、タバコカスミカメはアザミウマを選んで食べます。コナジラミとチャノホコリダニは、スワルスキーカブリダニが受け持ちます。
| 項目 | スワルスキーカブリダニ | タバコカスミカメ | 組み合わせ |
|---|---|---|---|
| よく効く害虫 | コナジラミ チャノホコリダニにも必要 | アザミウマ チャノホコリダニは食べない | 2種で主な害虫を分担 |
| 10aあたりの放飼量 福岡県の試験 | 50,000頭 | 5,000頭 | 害虫を低い密度に抑えた コナジラミは1頭/葉未満、アザミウマは0.2頭/葉未満 |
| 注意すること | 市販の製剤を放す | 増えすぎるとナスを傷める 16頭/葉以上で奇形葉 | 温存植物で数を調整 増えすぎたら、クレオメなどの温存植物を持ち出すか切る |
タバコカスミカメは、卵から羽化まで育つ下限が約13℃です。高知県の資料は、平均の管理温度を17.5℃以上にして使うのが望ましいとしています。
出典:福岡県農林業総合試験場「施設ナスにおける難防除害虫防除のための適正な天敵放飼量」(平成28年度 成果情報)、高知県農業技術センター「タバコカスミカメの温存・増殖技術」
安芸農業振興センター管内の施設ナスでは、天敵を使わない場合と比べて農薬費が35〜53%減り、防除の時間はIPMを入れる前より73%減りました。散布の重労働が減り、そのぶんの時間を収穫や整枝に回せるようになっています。
ただし、天敵を入れて困ることもあります。
結論:殺虫剤を減らしたら、病気の予防は別に考える
天敵を入れたハウスで、病気が増えた理由
高知県では、天敵の導入で殺虫剤の散布が大きく減りました。それまで殺虫剤と一緒にまいていた殺菌剤も減っています。
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害虫は天敵で抑えられ、殺虫剤の散布が減る
殺虫剤施設キュウリの実証では、殺虫剤の散布回数が慣行の1/9になりました。
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一緒にまいていた殺菌剤も減る
殺菌剤同じ実証で、殺菌剤の散布回数も1/3に減りました。
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それまで目立たなかった病気が増える
病気高知県の施設ナスでは、IPMを入れる前(1998年)と後(2015年)で、黒枯病の発生面積率が7%から97%に、うどんこ病が13%から54%に増えました。
殺菌剤は発生前に予防で使い、殺菌剤だけに頼らない方法も進める
対策論文は、病害防除の基本は発生する前からの予防的な殺菌剤の処理だとしています。高知県は2016年から、殺菌剤だけに頼らない病害の防除技術の開発と普及に取り組んでいます。
その一つが湿度の制御です。キュウリ褐斑病は、高い湿度が12時間以上続くと感染すると報告されています。高知県の試験では、結露センサーの付いた暖房機の制御で湿度を下げ、ユリの灰色かび病を抑えました。
出典:中石一英・下元祥史・田中若菜「高知県におけるIPM技術の課題と今後の展望について」(日本農薬学会誌 43巻1号、2018年)
論文は、農薬の散布から解放されたことを一度実感すると、予防のために殺菌剤だけをまくよう指導しても、まく人は少ないのが現状だとしています。殺菌剤を使うときは、天敵への影響を普及指導員やJAに確かめてください。
5. 費用の見方
温度管理を変えた試験では、センターが10aあたりの収益を試算しています。
結論:重油代はほぼ同じで、収益は10aあたり約37万円増
CO2施用(400ppm)のもとで温度管理を変えた試算。慣行の温度管理との差
収量が1.5t/10a増え、収入は約39万円増えました。重油代の増加は約2万円で、収益の増加は約37万円です。
収益は、収入から重油代だけを引いた値です。収入は、園芸連の月別単価(平成25〜27園芸年度の平均)に0.7をかけて計算しています。どちらの区もCO2を施用しているため、ガスや機器の費用はこの差に入っていません。
出典:高知県農業技術センター「ナス促成栽培における炭酸ガス施用条件下でのオランダ参考温度管理」(平成25〜27年度)
この試算は、CO2施用をしている2つの区の差です。CO2施用そのものの費用は入っていません。
安芸地域の資料では、環境制御の機器を入れて使うと、10aあたり年間26万円程度の経費がかかるとしています。これを取り戻すには、10aあたり約1t以上(今の収量の5〜7%)の増収が必要です(平成31園芸年度の単価275円/kgで試算)。
自分のハウスで計算するときは、次の項目を入れます。
- 増えるもの:冬の収量、A品の割合
- 増える費用:機器の償却、灯油や液化炭酸ガスの代金、天敵の代金、増えた実の収穫・調製の手間
- 減る費用:殺虫剤の代金と散布の時間
6. 倉吉のハウスで試すときに確かめること
ここからは、高知の試験を山陰で使うときに、私たちが確かめておきたいと考えている点です。鳥取県での試験結果ではありません。
- CO2が足りなくなる時間があるか:気象庁の平年値(1991〜2020年)では、1月の日照時間は鳥取が69.0時間、高知が190.7時間です。晴れて光合成が進む時間が短ければ、CO2が足りなくなる時間も短いかもしれません。施用を決める前に、冬の晴れた日にハウスの中のCO2を測ります。
- 日射比例のかん水の設定:曇りの日に水が減る仕組みは、天気の変わりやすい地域に合う面があります。ただ、高知の試験でも春に湿りすぎた区がありました。土壌水分計で確かめながら設定します。
- タバコカスミカメが働ける温度か:高知県の資料は、平均の管理温度を17.5℃以上にして使うのが望ましいとしています。暖房の温度を低めにするハウスでは、増えにくいことが考えられます。放す時期や数は、普及指導員やJAに相談します。
まとめ
高知の試験では、CO2施用で冬春ナスの売れる実が6%、冬の12〜4月に限ると12%増えました。別の試験では、CO2を施用したハウスで温度の配分を見直すと、重油の量はほぼそのままで、慣行の温度管理より1.5t/10a多くなりました。日射比例のかん水は、土の水分で補正すると水が減り、収量は同じでした。天敵を使った防除で、防除の時間は7割減っています。
「反収30トン」は県の目標の上限です。安芸地域の平均は10aあたり13〜14tで、機器を入れても増えなかった農家が3割以上います。
まずは冬の晴れた日に、ハウスの中のCO2と土の水分を測るところから始めてみてください。
出典・参考リンク
- 高知県農業技術センター「炭酸ガスの施用が促成ナスの生育、収量に及ぼす影響」(センターニュース第76号・PDF)
- 高知県農業技術センター「ナス促成栽培における炭酸ガス施用条件下でのオランダ参考温度管理」(PDF)
- JA高知春野・高知農業改良普及所「キュウリ促成栽培での炭酸ガス施用効果(PR版)」(平成29年7月作成・PDF)(朝と日中のCO2濃度の変化、灯油を燃やす発生機)
- 高知県農業技術センター「土壌水分状態と日射量に基づく施設ナスのかん水管理技術の開発」(センターニュース第113号・PDF)
- 高知県農業技術センター「タバコカスミカメの温存・増殖技術」(PDF)
- 中石一英・下元祥史・田中若菜「高知県におけるIPM技術の課題と今後の展望について」(日本農薬学会誌 43巻1号、2018年)
- 福岡県農林業総合試験場「施設ナスにおける難防除害虫防除のための適正な天敵放飼量」(平成28年度・PDF)
- 高知県「IoPプロジェクト概要」(PDF)(収量の目標、環境制御機器の導入台数)
- 高知県「日本一のナス産地の維持・拡大」基本計画シート(JA高知県安芸地区園芸研究会ナス部会・PDF)(平均出荷量、増収しなかった農家の割合、経費の試算)
- 全国知事会 先進政策バンク「土着天敵を活用した総合的病害虫管理技術の普及」(高知県)(天敵の普及率、IPMの考え方)
- 気象庁「平年値(年・月ごとの値)」鳥取(1月の日照時間)
- 気象庁「平年値(年・月ごとの値)」高知(1月の日照時間)